フィールド・デザイン思考~右脳と左脳の交差点

弊社代表 見山謙一郎のコラムです

【就活考-1】学生にCSRをどう教えるか? ⇒ 学生は卒業後、なぜ就職するのか?

2011年~2014年の4年間、母校立教大学の学部学生向けの全学共通カリキュラムにおいて「新時代の企業経営~「企業」と「社会」との関係性を考える~」という科目を担当しました。巷には、「CSR」や「ソーシャルビジネス」、「BOPビジネス」などのキーワードが氾濫し、特に、就活中の学生は、こうしたキーワードには敏感です。この講義では、とかく「いいこと」と短絡的に捉えられがちな、これらのキーワードの本質を学生とともに考えることに主眼を置きました。

●自分ごとに置き換えてモノごとを考える
社会人向けの講演や講義で「CSR」と言えば、人それぞれにイメージがあり、細かな説明は必要ありません(だからこそ、思考停止ワードになりがちなのですが・・・)。一方、社会人経験のない学生に対しては、そういう訳にはいきません。まして1年生から4年生、更には様々な学部の学生が受講する科目となれば、詳細な説明が必要となります。とは言え、「CSR」なるものを詳細に説明すればするほど、実態からかい離したものとなり、理想像を纏ったものになりがです。そこで、学生に「自分ごとに置き換えてモノごとを考えてもらう」ため、200人以上の大教室での講義でありながら、敢えてグループディスカションを取り入れてみました。

企業と社会、社会と自分との関係性に気づく
そもそも、企業に勤めた経験がない学生に対し、企業経営の講義を行うことは、とても難しいことです。そこで、初回の講義冒頭では、学生に向けて「卒業後、なぜ就職をするのか?」という問いを投げかけてみました。この問いに対しては、「お金がないと生活できないから」という現実的な意見の他、「就職がゴールではなく、自らが社会で揉まれることで成長し、社会に恩返しするため」などの前向きな意見が出されました。

次に、「自分が就職したいのは、どのような企業か?」という問いを投げかけてみました。ここでも、「給与水準が高く、福利厚生がしっかりしている企業」という現実的な意見から、「自分を成長させてくれる企業」のような未来志向の意見が出されました。

そして、最後に投げかけたのは、「社会にとって、必要とされる企業とは?」という問いでした。「世の中の役に立つ企業」、「社会を考えたサービスや製品を提供する企業」などの意見が出されましたが、ここで学生は「自分が就職したい企業」と「社会にとってのいい企業」の基準が、必ずしも一致しないことに気づくのです。更には、「なぜ就職するのか」という冒頭の質問との関連性について、あらためて考えることへと繋がっていきます。このようにして、企業に対する見方や、企業と社会、企業と自分自身、そして社会と自分との関係性を、学生自身が、より深く考えるきっかけになったのです。

●学生の社会的責任(SSR: Student Social Responsibility
CSRの講義では、「学生の社会的責任(Student Social Responsibility)とは何か?」という問いを学生に与えました。「学生に社会的責任などあるのか?」という雰囲気の中、グループディスカッションが始まりました。ここで出された意見は、以下のように整理されます。
①正直・誠実であること
②感謝の気持ちを忘れないこと
③他人に迷惑をかけないこと
④ルールを守ること
⑤人の道を外さないこと
⑥学業をおろそかにしないこと
⑦困っている人を助けること
⑧将来に向けた準備をすること
そして、これらの項目を企業に当てはめ、下図のように相対化させることで、学生にCSRの具体的なイメージを実感してもらいました。

SSRとCSRの相対化
スライド1
講義資料より抜粋

更に、経営学部の学生からは、「学費を負担している親は、自分にとっては出資者に当たる」、「親は、自分の成長に投資している」、だから「自分はそれに応える責任がある」という意見などが出されました。このように、学生にとってイメージしづらい「CSR」を自分ごとに置き換えることで、その本質的なイメージを掴むことが出来たのではないかと思います。

●学生同士が、多様性ある議論から学ぶこと
また、大教室での学年縦断的、学部横断的なディスカッションでは、思わぬ収穫がありました。入学後間もない1年生や、就活を控えた3年生が、就活中の4年生から企業の話を聞く機会は、とても有意義なものだったようです。この講義の趣旨である、「自分ごとに置き換えてモノごとを考える」ためには、同世代の学生同士の多様性ある議論から学ぶことが一番なのでしょう。そう考えると、この講義は、こうした学生同士の議論の補助線としての役割を果たしていたのかも知れません。
以 上

マーケティングホライズン(日本マーケティング協会)201112号に加筆

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