フィールド・デザイン思考~右脳と左脳の交差点

弊社代表 見山謙一郎のコラムです

【就活考-2】エリートではなく、デリート ⇒ 煮え切らない思いや、はみ出す力を呼び起こす

一流大学を出て、一流企業に就職すると、世間一般には “エリート(Elite)”と認識されるようです。しかし、首尾よく一流企業に入れたとしても、数年で退職する若者も少なからず存在していることも事実です。また、退職はしないものの、常に「その時」を伺いながら、職に留まる“エリート”は私の周りにも数多く存在しています。終身雇用体制が崩壊したと言われて既に久しいですが、新卒一括採用の雇用慣行は、相変わらず終身雇用という幻想を前提にしています。しかし実際のところは、既に企業も学生も終身雇用を前提としていないにも関わらず、当事者同士がそのことに気づいていない「ふり」を演じ合っている、それが「就活の正体」なのだと思います。

●デリート
私自身は2005年10月末に15年半勤務した三井住友銀行(旧住友銀行)を退職した“デリート(Delete)”です。銀行退職後に選んだ道は、日本を代表するアーティストが設立した、環境プロジェクトに対して融資を行うap bankという非営利の金融組織(NPOバンク)でした。同じ金融とはいえ、銀行とは規模的にも理念的にも180度違う世界への転身でした。当時はまだ、金融資本主義が世の中に蔓延っていた時代であり、かのリーマンブラザースも健在でした。退職する時、銀行の人事部の方からは「外資系金融機関に転職するなら、翻意させる口説き文句はいくつもあるが、環境ビジネスやNPOは想定外だった。転職なら止められるが、君の人生観までは変えられない。」と納得してもらい、温かく送り出してもらいました。その後、ap bankの理事を3年間つとめ上げた後、起業独立しました。銀行退職から今日に至るまで、相当の紆余曲折はありましたが、様々なご縁をいただきながら、貴重な経験や挑戦の機会をいただいていることに本当に感謝しています。

●今の「就活」に思うこと
今年も就職戦線真っ只中で、大学内ではOB・OGによる会社説明会が頻繁に開催され、着慣れないスーツを身にまとった大学4年生が右往左往する様子が何とも滑稽に映ります。IoT時代の就職活動は、エントリーシート(ES)さえ出せば気軽にエントリーが出来る反面、 “お祈りメール”(「今後のご活躍をお祈りします」)と呼ばれるこの手のメールが届くたびに、就活生はそれなりの挫折感を味わうことにもなります。私が就職活動をしたのは、1989年のこと。昭和から平成になったこの年は、東証の大納会で日経平均株価が史上最高値の38,957円44銭を記録するなど、まさにバブル経済真っ只中で、今では考えられないような超売り手市場でした。当時は、GPA(Grade Point Average)もTOEICの点数も求められなければ、面接で「自己PR」という名の演技もさせられず、ありのままの姿(=個性)をさらけ出すだけで良かった時代です。だからこそ、今の学生を見ていると、何とも気の毒な気分になります。

●はみ出す力を後押しする
「そもそも、大学卒業後、なぜ就職をするのだろう?」2011年から2014年の4年間担当した、立教大学の全学共通カリキュラム「新時代の企業経営~企業と社会との関係性を考える」(*)は、こんな問いかけから講義がスタートしました。毎年200人以上の学生が受講したこの講義は、一方向性ではなく双方向性を重んじ、大教室での講義でありながら毎回グループディスカションを行うのが特徴でした。講義で扱うのは、環境問題や開発途上国の貧困問題といった国際的な問題から、高齢化社会や地方の過疎化といった国内の問題まで及びます。講義では、こうしたリアルタイムの社会課題に対して、学生視点での具体的な提案が求められました。いわば、「企業戦略における意思決定プロセスを学ぶ講義」だったと思います。実はこれらの社会課題は、全て私自身が実際に事業で関わっている問題であり、この講義でのディスカッションは私自身の思考にも大きな影響を与えました。右肩上がりの経済成長や金融資本主義の概念が既に過去のものとなった今、これからの時代には過去の延長線上にはない新たな価値創造が求められます。そんな時代だからこそ、私は未来を担う学生の声に耳を傾け、新たな時代の価値共創を実現したいと考えています。そして、教育者として何よりも嬉しかったことは、受講生が講義終了後に様々な具体的アクションを起こしてくれたことです。
就職活動が終わったある4年女子(当時)は「開発途上国の実情を見ずして卒業はできない」と、先進国への渡航を急遽キャンセルし、バングラデシュに渡りました(今、彼女は、地域活性化と日本の食文化の世界への発信を志し、Iターンで地方の企業に就職し、海外の販路拡大を任されています)。
また、「世界を見ずして社会に出ることは出来ない」と考えた当時の3年女子は、単位交換留学ではなく自分自身で留学先を見つけ、留年覚悟で1年間のアメリカ留学を決めました(卒業後、彼女は、世界を目指し、日本を代表する自動車メーカーで働いています)。
学生の内面にある煮え切らない思いや、はみ出す力を呼び起こし、それを後押しすることが“デリート”として私の役割なのだと思っています。
以 上

(*)「新時代の企業経営」は、「13歳のハローワーク」の動画で視聴できます。

マーケティングホライズン(日本マーケティング協会)2014年1号に加筆

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